○ 日本の最賃低すぎる!と国連社会権規約委員会
◆ 世界人権宣言の内容を条約化した、国際人権規約。その柱のひとつが「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」です。規約の適用状況を調査し、改善を働きかける、社会権規約委員会が、第50会期(2013年4月29日〜5月17日)に採択した
日本の第3回定期報告書に関する総括所見を公表しました。
同委員会は、差別、労働、社会保障、震災・原発事故、教育など31項目におよぶ勧告を日本政府に対して行いましたが、その中に、最低賃金に関する懸念と勧告も含まれていました。
C.主要な懸念事項および勧告 (1〜17、19以降略)
18.委員会は、締約国(日本)全域の最低賃金の平均水準が、最低生活水準、生活保護給付額および上昇する生活費に満たないことを懸念する。(第7条、第9条、第11条)
委員会は、労働者およびその家族が人たるに値する生活を送れることを確保する目的で、最低賃金水準を決定する際に考慮される要素を見直すよう、締約国に対して促す。委員会はまた、締約国が、最低賃金以下の報酬しか支払われていない労働者の割合に関する情報を次回の定期報告書で提供するよう要請する。
◇委員会は、日本の最低賃金の水準が、生活保護給付や最低生計費などを満たすにいたらないことに懸念を表明し、改善を勧告しています。中でも注目されるのが、最低賃金の金額改定の際の考慮要素を見直すよう、促している点です。
ポイントは2つあります。
ひとつは、委員会が「労働者およびその家族」が人たるに値するディーセントな生活を送ることができるようにすべきと言っている点です。日本の最低賃金の水準は、あまりに低いので、私たちも当面の要求として、「せめて単身者の最低生計費を保障せよ」とし、1000円以上という要求提示をしています。しかし、当面の要求の先に、「労働者およびその家族の必要をみたすべき」という目標があることを、あらためて示されたように思います。
もうひとつのポイントは、上記のディーセントな生活を達成するために、最賃改定の際の、金額決定要素を見直すべしとしている点です。なにをどう見直すかは明記されていませんが、念頭におかれているのは、生計費の視点の強化とあわせて、「通常の事業の支払い能力」という規定を見直すということだと思われます。
◆日本の最低賃金法は、第9条2項 において「地域別最低賃金は、地域における労働者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められなければならない。」としています。
しかし、ILOの最低賃金決定条約(第131号)でも、同名の勧告(第135号)でも、最低賃金の水準を決定するにあたっては、支払い能力論などありません。
考慮されるべきは、次のような基準とされています。
(a) 労働者及びその家族の必要、
(b) 国内の賃金の一般的水準、
(c) 生計費及びその変動、
(d) 社会保障給付、
(e) 他の社会的集団の相対的な生活水準、
(f) 経済的要素(経済開発上の要請、生産性の水準並びに高水準の雇用を達成し及び維持することの望ましさを含む。)」
社会全体でみた雇用や生産性などは、最賃改定の際の考慮要素とされていますが、個別企業の支払い能力などは考慮の外です。
◇日本は、ILOの条約を批准しています。この夏、社会権規約委員会の勧告を大いに活用して、「最賃改定もグローバル・スタンダードで行おう!」
「個別企業の支払い能力を理由とした最賃抑制の主張は、世界には通用しない!」
「保障すべきは、労働者とその家族の必要を満たす水準だ」との声を、中央・地方の最低賃金審議会に、響かせましょう!
・・・・・『社会権規約委員会』とは;
正式名称は、経済的、社会的及び文化的権利委員会( Committee on Economic, Social and Cultural Rights)といいます。1966年12月、国際連合総会によって採択された、社会権を中心とする人権の国際的な保障に関する多数国間条約、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」(社会権規約)の履行を確保するために、国連経済社会理事会の下に1985年に設置された委員会です。
社会権規約では、国際的実施措置として報告制度が設けられており、国連経済社会理事会の下に1985年に設置された、この社会権規約委員会が、締約国から提出される報告の審査に当たっています。
委員会は18名の専門家(任期4年)から成り、ジュネーヴで年2回、それぞれ3週間の会期と1週間の会期前作業部会を開いて、各国からの報告をふまえた審査を行っています。
委員会は報告審査のほか、一般的意見の発出を通して、社会権規約の概念確定と規約の
実効性の強化に努めています。
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